子馬

若い頃、昭和二十六年の春・農家である我が家にも農耕馬を飼っていた。農業高校の3年の卒業の前であった。
 「北海道から子馬が着いた」と言う電報を受け取ると卒業試験も放棄して、近所の馬好きなオジサンに連れられて、道程で約40kmの久留米市の家畜商の家に駆けつけたものである。胸をワクワクさせながら30頭以上も居ると思われる仔馬の中の1頭を選ぶのである。勿論、同じものが居ないのであるから、価格も同じではないのである。懐具合と良く相談して交渉をしないと大変な事になり兼ねない。
 調教中のジャミールIBN(GALALⅡ-2)1991年春、騎乗 山本伸幸氏( 山本乗馬普及所)
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(有)日本バボルナ
 満1歳にも満たない鹿毛の雄仔馬を手に入れると馬仲間の3人で家畜商の家に泊めてもらい翌早朝、夜も明けきらないうちに、ここの奥さんの手つくりの弁当を腰に、それぞれが1頭ずつ仔馬を引き連れて40kmの旅立ちであった。
 時々、遭遇する汽車の気笛や、擦れ違うオート三輪やトラック等どれも北海道の田舎で育った仔馬達を驚かせ、引率者にとっては決して有難いものではなかった。平坦な筑後平野を流れる筑後川を過ぎて宝満川の河川敷が、丁度程よい休憩をかねた昼食時である。そこで食べた家畜商の奥さんの、心のこもった“おにぎり”と唐辛子とニンニクの良く利いた朝鮮漬け(キムチ)の美味しかったことが未だに忘れられない思い出になっている。
 可愛いが、なかなか人の思いどおりには動いてくれない子馬を引き連れて20kmほど歩くと我が筑豊との間に横たわる三郡山系の冷水峠を越さなくてはならない。現在では国道200号としてトンネルが掘られて立派に整備されているが、当時は砂利道で決してよい道路と言えるようなものではなかった、近道である石畳の急な道(参勤交代の頃の内野宿と山家の間の山道)を選んで峠にさしかかる頃には陽はとっぷりと暮れ明かりのない真っ暗闇の山道が怖いのか仔馬が人に擦り寄ってくるのである。三頭の仔馬と三人がまさしく、励ましあい、助け合いながら麓に向かって歩いたのである。それぞれが子馬の到着を待ちわびる家族のもとに到着したのは深夜であつた。    

*、当時は馬運車などなくて長距離の大量輸送は国鉄の貨車で、一、二頭の馬の移動は殆んど歩いていた。因みに、たまに牛馬の宿も存在していた。

農家の家族の一員となった仔馬は先ずハミ(水ろく頭酪)を付けることを憶えなくてはならない。ハミ、これは車のハンドルとブレーキのような役割をするもので馬を制御するために無くてはならない道具で、馬が喜んでこれを噛むように教[馴致]えなければならない。幼くて非力な頃に覚えさせておくと旨くいくのが鞍付け、そして荷馬車を引くことを教える。これは先ず荷馬車の四輪に棒を差込み、この棒をロープで車輪に固定する。鞍をつけた馬に梶棒によって荷車を連結して馬に引かせるのである。回転しない車輪は非力な仔馬にとっては少々可愛想ではあるが、事故が起きないようにこの様な配慮もしなくてはならない。仔馬が荷馬車に慣れると車輪の固定を徐々にはずしてやれば良い。鋤を引かせて田畑を耕すことも教えなくてはならない。

 牛馬は農家にとっては家族の一員であり、大切な労働力であった。馬を繁殖し育成する人達の寝食を忘れた“持続する愛情と努力”によってこそ、良い馬は育つのである。この様な農耕馬や挽馬、軽種のサラブレットやアラブ、全ての馬は人の愛情や人との関わりに拠って存在しているのである。乗馬をする人は、まず”馬と仲良くなること”が最も大切な事である。
 元来、馬は背中に鞍を乗せて人や荷物を運ぶために生存していた生き物ではない。人の都合で馬を利用しているもので馬にとっては背中に重い荷物や人を乗せるなど迷惑千万なことである筈。
 “馬は友達”とか“人馬一体”とか馬に関係する人達の美辞麗句を良く耳にするが、友達の背中に跨り良い付き合いを望むならそれなりの礼儀が必要と思う。少なくとも人馬一体の騎手〔乗馬をする人〕が馬刺しや馬肉料理を「酒の肴」にする。等、人間性を疑いたくなるのは小生のみであろうか。

*ドイツ人のDr.ナーゲル「日本には馬肉を食べる人が居ると聞いているが?」     

 私「私の住んでいる隣の県では馬を肉用に肥育して、刺身(生肉)で、食べている」

Dr.ナーゲル、は非常に悲しんでいた。われわれが、犬や猫の肉を食することを肯定できない事と似たような思いではなかろうか。
 彼は、感性の豊かな純血アラブの世界的に有名な繁殖家でありWAHOの責任者の彼が許容できる話ではない。
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Dr.ナーゲル * WAHO (世界アラビア馬機構)
(有)日本バボルナ

by babolna | 2007-07-11 07:40 |  

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